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【女性の就職・転職向け】企業の「男女の賃金差異」の公表内容からわかること

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2022年7月8日の「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(以下、女性活躍推進法」とします)の制度改正により、常時雇用する労働者が301人以上の企業に対して、「男女の賃金差異」が情報公表の必須項目になりました。今回の記事では、就職活動中の学生や転職を検討している求職者の視点で、企業の「男女の賃金差異」の公表内容からわかることについて解説します。

「男女の賃金差異」公表義務化とは

「男女の賃金差異」の公表義務とは、女性活躍推進法の改正に基づき、2022年7月8日より、従業員数301人以上の企業は男女間の賃金格差の公開が義務付けられたものです。

女性活躍推進法とは、2016年4月1日に施行された法律です。「女性の職業生活における活躍を重点的に推進し、男女の人権が尊重され、かつ、社会経済情勢の変化に対応できる豊かで活力のある社会を実現すること」を目的とし、「女性の個性と能力が十分に発揮できるように職業生活と家庭生活の円滑かつ継続的な両立」が可能となることを基本原則として定めています。

また、この法律の実効性を確保するために、常時雇用する従業員数101人以上の企業には、「一般事業主行動計画」の策定として、「女性の活躍状況の把握と課題の分析」や、それらを踏まえた「数値目標と取り組み内容を表した行動計画の策定・社内通知」「都道府県労働局への届け出」「女性の活躍に関する情報の外部公表」等を義務づけています。

なお、「女性活躍推進法に基づく男女の賃金の差異の公表等における解釈事項について(法第20条・省令第19条等関係)」によると、公表された情報に誤りがあった場合や公表義務があるにもかかわらず公表しなかった場合に、労働局は当該企業に対して報告を求め、または助言、指導もしくは勧告をすることができるとされています。また、勧告を受けた企業が従わなかったときは、その旨を公表することができるとされています。

出典: 厚生労働省 |「女性活躍推進法に基づく男女の賃金の差異の情報公表について」

出典: 厚生労働省 |「女性の活躍に関する「情報公表」が変わります」

義務化された背景 ~男女間の賃金格差は依然として大きい~

上記で「男女の賃金差異」公表義務化について説明しましたが、なぜ、「男女の賃金格差」の公開が義務づけられたのか、その背景を見てみましょう。
労働者が性別により差別されることなく、その能力を十分に発揮できる雇用環境を整備することは重要な課題であるとし、男女雇用機会均等法の施行により男女均等取扱いの法的枠組みは整備されました。そして、法整備の進展に伴い、多くの企業において、女性の職域が拡大し、管理職に占める女性の割合が上昇傾向にあるなど女性の活躍が進んでいます。
しかし、他の先進国と比べると、日本における男女間の賃金格差は、依然として大きい状況にあるといえそうです。

イギリス:2017年 男女間賃金格差に関する情報公表を義務付け(労働者数250人超の官民の組織が対象)
ドイツ:2017年男女の賃金の公平性に関する報告書の公表を義務付け(労働者数500人以上の会社が対象)
フランス:2001年男女間賃金格差を団体交渉事項に追加。2018年男女間賃金格差を含む男女平等指標の公表を義務付け(労働者数50人以上の企業が対象)

引用:男女間賃金格差 (Gender wage gap) – OECD

政府の取り組み状況

このような背景のもと、男女間の賃金格差の是正も含め、まずは広い視点で、政府はどのように男女共同参画社会の実現を進めようとしているのか、見てみましょう。男女共同参画社会とは、「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会」です。(男女共同参画社会基本法第2条)

出典:「男女共同参画社会」って何だろう? | 内閣府男女共同参画局 (gender.go.jp)

令和4年度男女共同参画社会の形成の状況

内閣府男女共同参画局が作成した令和5年版の男女共同参画白書のうち、「特集編 新たな生活様式・働き方を全ての人の活躍につなげるために~職業観・家庭観が大きく変化する中、「令和モデル」の実現に向けて~」では、職業観や家庭観が大きく変化する中で「令和モデル」の実現を目指し、一人ひとりの社会参加を促すためのライフスタイルや働き方の適応に焦点をあてています。その内容を要約しましたので、参考にしてください。

社会と家族の変化

人生100年時代を迎え、生活や家族形態の多様化が進んでいます。従来の「夫婦・子育て世帯」は大幅に減少し、単身世帯・ひとり親世帯が全世帯の半数近くを占めるようになりました。共働き世帯の数も大幅に増加しています。

男女共同参画政策と課題

男女雇用機会均等法の施行後、過去37年間、男女共同参画と女性の活躍を促進するためのさまざまな法律が整備されてきました。しかし、この報告書では、特に新型コロナウイルス感染症拡大の重圧の下で、女性の雇用と生活に大きな影響を与える原因となっている、主に女性が行う無償労働など、根強い性別による分業を指摘しています。

リモートワークの影響

テレワークの導入が社会に浸透し、働き方が多様化し、男女ともに仕事と家庭生活の両立に役立っています。これは、女性の無給労働を減らし、女性の経済的自立に貢献する潜在的な選択肢のひとつとなるとみなしています。

新型コロナウイルス感染症後の適応と課題

世界が新型コロナウイルス感染症の影響から回復していこうとしている中、世界的な紛争による経済的負担などの新たな課題が家計に影響を及ぼしています。これらの新たな問題に対処し、ジェンダー平等をさらに推進するために、考え方や社会規範の変化を利用する必要性を強調しています。

令和モデルビジョン

性別を問わず、誰もが家庭でも職場でも志を叶え、活躍できる社会として「令和モデル」を策定。伝統的な性別役割分担からの転換を呼びかけ、バランスの取れたライフスタイルが当たり前となり、女性の経済的自立が支援される社会を提唱しています。

令和モデル実現の優先課題

誰もが能力と働きを最大限に発揮できる環境づくりを優先し、男女ともに仕事と家庭生活のバランスを確保し、女性の経済的自立を基盤とすることを提案しています

男女共同参画社会の形成の促進に関する施策

また、令和5年版の男女共同参画白書のうち、「令和5年度に講じようとする男女共同参画社会の形成の促進に関する施策」の中で、積極的改善措置(ポジティブ・アクション)の推進等による女性の参画拡大・男女間格差の是正に向けた様々な取り組みや施策について記載されています。その内容を要約しましたので、参考にしてください。

  1. 女性活躍推進
    女性活躍の現状を把握・分析し、それに基づいて目標を設定し、女性活躍推進のための積極的施策(ポジティブ・アクション)を推進するための行動計画を策定する。2022年7月に施行された「女性活躍推進法」の改正に伴う、従業員301人以上の事業主の男女賃金格差の公表義務化も契機としている。賃金格差の原因を分析・対処し、雇用管理の改善を図ることを目的としている。これらの取り組みを行う企業に対しては、コンサルテーションやコンサルティングを通じて支援を行う。
  2. ワーク・ライフ・バランスの推進
    女性活躍推進法等に基づき、女性活躍推進法等で施策を推進していると認められた企業に対し、調達において優遇措置を実施する。これは、これらの企業の注文機会を増やすことを目的とする。また、地方自治体にも同様の慣行を採用するよう働きかける。
  3. 投資判断のための情報開示
    女性活躍に関する投資判断に有用な情報開示を企業に促すため、有価証券報告書等における企業の自主開示の優良事例を収集し、普及させる。
  4. 女性役員の登用
    女性活躍推進に積極的に取り組む企業を認知し、女性役員の登用・育成課題の解決に取り組む。有価証券報告書から女性役員の情報を集約・開示し、女性登用が進まない理由の調査などを行っている。
  5. 女性労働者のキャリア支援
    メンター制度の導入、ロールモデルの開発、地域ネットワーク構築のためのマニュアルや事例の作成などを推進し、女性労働者のキャリア形成を支援する。また、女性活躍を阻害するアンコンシャスバイアスをなくすためのセミナーも開催する。
  6. 次世代人材育成プログラム
    次世代リーダーの育成のため、学校等における女子学生を対象とした人材育成プログラムの開発・実施を推進する。
  7. 特定産業における女性活躍推進
    女性の活躍が不十分な産業(建設業、海運業、自動車運送業など)において、ICT活用による生産性向上、多様な人材が活躍できる環境整備、雇用促進等に取り組む。

出典:08 第2部 令和5年度に講じようとする男女共同参画社会の形成の促進に関する施策,pdf (gender.go.jp)

賃金格差の要因(管理職・勤務年数・労働時間)

上記で、男女間の賃金格差を是正することも含め、政府がどのように男女共同参画社会の実現を進めようとしているのかを説明しました。それら男女間格差の是正に向けた様々な取り組みや施策が必要となる、現状の男女間の賃金格差異の要因が何なのか見ていきましょう。

厚生労働省の調査内容からみると、男女間の賃金格差の主な要因は、男女間の役職の違い(管理職比率)にあるようです。企業規模10人以上の管理職(課長担当職以上)に占める女性の割合を見ると、令和4年度は前年度から0.4ポイント上がり、12.7%となっています。緩やかな上昇傾向にはあるものの依然として低い状況であり、役職(特に管理職)に基づく賃金の差異がそのまま男女間の賃金格差につながっているといえます。

出典:令和4年度雇用均等基本調査|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

また、勤続年数の違いや労働時間の違いも男女間の賃金格差の要因となっています。結婚や妊娠・出産、育児等を理由に仕事を辞める女性は減少傾向にあると言われており、年齢階層別の就業率がM字カーブを描く状況は25~29歳、30~34歳の就業率の上昇で改善しつつありますが、それでも結婚や妊娠・出産、育児等を理由に仕事を辞めたりする女性は一定数おり、また、育児休業復帰後にフルタイムから短時間勤務に切り替えたりする女性も多いことから、男女間の勤続年数や労働時間に違いが生じ、それらが男女間の賃金格差につながっているようです。

このほか、非正規雇用で働く既婚女性の一定数が、配偶者控除の適用を受けるために、収入を一定額以下に抑える就業調整をしています。国税庁が発表した「令和4年分 民間給与実態統計調査」によると、給与所得者のうち、年末調整を行った者は4,697万人(対前年比1.6%減、75万人の減少)となっていますが、このうち、配偶者控除または扶養控除の適用を受けた人は1,276万人(同5.3%減、71万人の減少)となっており、社会保険や税制等の制度が女性の就業に影響を及ぼし、賃金を下げる要因の一つとなっているようです。

出典:令和4年分 民間給与実態統計調査|国税庁 (nta.go.jp)

情報公表から分かること

上記の通り、2022年7月の女性活躍推進法の制度改正により、常時雇用する労働者が301人以上の企業を対象として、「男女の賃金差異」が情報公表の必須項目になりました。

公表される企業の「男女の賃金差異」は、1事業年度における男性の平均年間賃金に対する女性の平均年間賃金の割合(%)の数値です。数値が100%であれば、男女間に賃金の差異がないことを示しており、例えば80%であれば女性の賃金の方が男性の賃金より20%低いことを示しています。逆に、120%であれば、女性の賃金の方が男性の賃金より20%高いことを示しています。

より具体的に見ると、「男女の賃金差異」の割合は、次の3区分ごとに分けて算出・公表することが必須となっており、雇用管理区分別に賃金の差異が読み取れるようになっています。

男女の賃金差異の3区分

  1. 全従業員
  2. 正規雇用の従業員(正社員)
  3. 非正規雇用の従業員(パート・有期社員)

加えて、情報を見る側の求職者等が、他の企業の情報と比較できるように、雇用管理区分や賃金などの定義や対象期間は、明確に示すこととされています。例えば、賃金には基本給のほか、どのような手当(割増賃金、賞与など)が含まれているのか、賃金から除外した手当てがある場合には、その具体的な手当の名称などを表示することが企業側には求められています。

情報公表からだけでは分からないこと

公表される情報は、あくまで賃金の年間平均値を用いて、男女の差異を算出した数値であり、1つの指標にすぎません。数値の大小のみで、女性の活躍推進や、男女間の賃金格差の是正に関する取り組み内容を的確に判断することはなかなか難しいと思われます。わかりやすいよう、次のような事例を挙げてみました。

【事例1】
育児期間中に短時間勤務を選択している女性が多い企業であれば、その人数が多いほど、女性の賃金が下がり、男女間の賃金の差異は大きくなる傾向にあります。育児期間中も女性が継続して働きやすい環境と見られる一方、男性の育児への関わりが少ない職場だと見られる可能性もあり、賃金の差異の数値だけでは、実態はわかりません。

【事例2】
女性が活躍しやすい職場環境を整えた結果、多くの女性従業員を新卒採用できた企業では、その企業内で相対的に賃金の低い若手に女性が増えたことで、一時的に男女の賃金差異が拡大するなど、女性活躍の取り組みと反比例する数値結果となる可能性があります。逆に、女性従業員の離職率が高い企業では、例えば相対的に賃金の低い若手の女性従業員が離職することで、数値上は男女の賃金の差異が縮小することも考えられます。

そこで、制度を所管する厚生労働省は、こうした「男女の賃金差異」について、数値だけでは伝えきれない企業の事情についても、積極的に公表するよう企業に推奨しています。情報を見る側としても、そうした数値の背景にある事情が公表されていれば、併せて確認するとともに、その他の公表情報(管理職比率や平均継続勤務年数など)も踏まえ、企業の状況を総合的に判断する必要がありそうです。

まとめ

企業の「男女の賃金差異」の公表内容については、女性活躍推進法が制度改正され、2022年7月から対象企業に対して、男女の賃金格差に関する項目の公表を義務化するよう変更が加えられました。

その背景としては、男女均等の取扱いの法的枠組みは整備され、その進展に伴い、多くの企業においては女性の職域が拡大し、管理職に占める女性の割合が上昇傾向にあるなど女性の活躍が進んでいますが、他の先進国と比べると、日本における男女間の賃金格差は、依然として大きい状況にあることといえそうです。そのような中、政府としては継続的に、積極的改善措置(ポジティブ・アクション)の推進等による女性の参画拡大・男女間格差の是正に向けた様々な取り組みや施策を実施していますが、男女間の賃金格差の現状の主な要因としては、管理職比率、勤務年数、労働時間などがあり、以前として賃金格差がある現状です。

これらを踏まえ、「男女の賃金差異」の公表内容からわかること、わからないことを理解し、就職や転職に活かしていきましょう。

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